
紛糾する経営会議
オフィス。
その日の経営会議は紛糾していた。
社長である鹿島修人はこう言った。

すかさずCFOの梁哲聖が反論する。

梁は国内最難関の大学を卒業し、ハーバード大学で修士を取り、米系投資銀行出身のザ・エリートだ。
シュートは折れない。
続けた。

CEO鹿島修人と、CFO梁哲聖。
この2人はまさに直感派と理論派。
経営会議に挙がるレベルのテーマでは、議論はいつも対立する。
シュートが譲らなければ、梁も譲らない。
梁は続けた。




実際、GORILLAのようなテクノロジーカンパニーは、「未来への期待値」で株価が大きく変動する。
5年前に上場してから最初の2年の株価は、この「未来への投資」で高い評価を得ていた。
しかし、ここ数年は変わってきている。
梁哲聖が続ける。


はあ・・・。
どこからか、ため息が聞こえた。
そのため息には、「またかよ」「そろそろ現実見ろよ」という意味が含まれていたのかもしれない。
それもそのはずだった。
かつては、天才起業家と呼ばれた鹿島修人だったが、ここ3年、連続で事業に失敗していた。
3年前に立ち上げた新規事業は、わずか1年で数億円の赤字を出し、撤退。
続いて立ち上げた事業も、鳴かず飛ばず。
赤字を垂れ流す状態だった。
そしてそのたびにシュートは、「僕がなんとかする」と言ってきたのだった。
だが、現実は、なんとかなっていない。
したがって彼の「なんとかする」という言葉は、信頼のデフレを起こしていたのだ。
これは梁哲聖に対してだけではなかった。
かつてはシュートを慕っていた上層部の多くも、今は彼の才能に懐疑的になっていたのだった。
だが、事実、2人の意見はどちらも完全には間違っていない。
梁の言う通り、会社は今苦しい。
まず立て直すべきは既存事業かもしれない。
一方で、これまで新規事業はすべて社長である鹿島修人の一本足打法で戦ってきた。
この会社で、もしシュートが新しいことを止めたとしたら、新規事業は止まる。
つまり、エンジンが止まるのだ。
「どちらの話にも一理ある」
少なくとも、経営会議のメンバーはそう感じていた。
そして、鹿島修人がもし失脚した場合、次に社長になるのは梁だ。
だから、誰もが保身を賭け、どっちつかずなのだ。
スタンスをとった発言をしないのだ。
企業が停滞し始めるとき、事業のあるべき姿ではなく、組織の政治に目が向かう。
長い沈黙が続いた後、折衷派の小川取締役はこう言った。



梁が、すかさず修正する。

1年で黒字化?
そんなことができるのだろうか?
皆がシュートのほうを見ている。
彼は大きく深呼吸をしたあと、一言だけ言った。

すかさず、他の役員が続く。
「でも、もし、うまくいかなかったらどうするんです?なんて投資家に説明するんですか?これだけ経営会議で反対されて、リスクもあるのにやって・・・・」
梁哲聖に目配せを送る。
おそらく、彼への忖度だろう。
だが、梁は反応しない。
手を組み、何も答えず、じっと前を見つめている。
鹿島修人は目をつぶっている。
そして、言葉を吐いた。

皆がわずかにざわついた。
小川取締役が言う。


つまり、これが彼のラストチャンスになる、こういうことだった。
次回
【1ー8】天才が会社を去るとき。シュートの覚悟。