
大企業でイノベーションが起きない理由

「ど、どういうことですか?」
「大企業でイノベーションが起きひん理由ってのは、3つの『軸』を1つのKPIで測るからなんや。」
?????
僕の中でまた疑問が浮かんだ。
「昔ある男が、大企業の経営企画局員として『社内のイノベーションコンテスト』に関わっていたことがあった。彼はそんとき、強烈な違和感を覚えた。違和感の正体が、のちに起業するようになり、わかるようになった。それは、革新的な事業いうんは、既存のKPIでは『絶対に測れないもの』ちゅうことなんや。」
| 項目 | 創造性 | 再現性 | 共感性 |
|---|---|---|---|
| ビジネスにおけるバリューチェーン | 創造し | 拡大させ | 金にする |
| 担当するメインプレーヤー | 天才 | 秀才 | 凡人 |
| 価値を測るための指標 | 適切なKPIがない | 事業KPI(CVR・LTV・訪問数・生産性などプロセスKPI) | 財務/会計KPI(PL・BSの載ることができるKPI) |
「既存のKPIでは測れない?」
「せや。例えるならそれはアートのようなもんや。すべての偉大なビジネスは『作って➡︎拡大させ➡︎金にする』というプロセスに乗るんやけど、それぞれに適したKPIは異なる。そのうち、『拡大』と『金にする』のフェーズのKPIは、わかりやすい。」
パンダは続けた。
「拡大は『事業KPI』で見れるし、金を生むフェーズは『財務上のKPI』で測ることができる。経営学の発展によって、プロセスが十分に科学されてきた功績やで。せやけどな、問題は『創造性』や。言い換えたら『天才かどうか』を、測る指標がないことや。」
「天才かどうかを、測る指標がない?」
「せや。ほんまに創造的なもんは、まだ見たことないようなもんや。それは、はっきり言うて“定義なんてできひん”もんや。いや、正確に言うと、”直接”は定義できひんもんや。」
僕は、ついていくので必死だった。
どういうことだろうか?
「たしかに創造性は、直接観測でけへん。せやけど、社会からの『反発の量』で間接的に測ることはできる。」

「反発の量?」
「せや。具体的に言うたら、『共感性の世界に生きる人からの初期の反発』なんや。言い換えたら、おまえみたいなやつが『殺そうとすればするほど』、それは創造性の裏返し、っちゅうこっちゃ。」
「創造性は、間接的に観測できる・・・」
「せやで。AirbnbやUberにせよ、リリースされたとき、社会から『強烈な反発』を受けた。あるいは、優れた芸術には、ある種の『恐さ』が必要と言われる。それと同じや。」
「恐さが必要?」
「せや。本来、企業は破壊的なイノベーションを起こすには『反発の量』をKPIに置くべきやけど、これは普通でけへん。なぜなら、大企業は『多くの凡人によって支えられているビジネス』やから。反発の量をKPIに置き、イノベーションを加速させることは、自分の会社を潰すリスクになる。これが、破壊的イノベーションの理論を人間力学から解説した構造やな。」
「僕らが反発するから、イノベーションが起きない?」
「皮肉やな。天才経営者を殺すのは、君みたいな凡人なんや。」
「そ、そんな・・・。少なくとも僕はそんなことないです。」
「いや、あるんやわ。」
「し、失礼ですよ!ないです、いや、絶対に!!」
「わははは」
「何笑ってるんですか!ふざけないでください!」
「ええやん。まさにその自分の反応こそが、この理論が『創造的』である証拠なんや。」
「からかわないでください。真剣なんですよ!」
「この話、凡人が天才を殺す理由という話は、はっきり言うて初めて聞いた時には、にわかには信じられへん。そらそうや。だって『聞いたことない話』やからな。それに、なんでかわかるか? 凡人は、天才が大好きでもあるからや。」
「ぼ、凡人は天才が大好き?」
「せや。」
「さっきは凡人が天才を殺す、とか言ってたいました。グチャグチャですよ。何言ってるんですか?」
僕は次第にムカついてきた。
「ええか。凡人はオセロや。オセロゲーム。凡人ってのは、成果を出す前の天才にはホンマに冷酷や。恐ろしく冷たい。けど、成果を出した途端、手のひらを返す。すごい!すごい!天才!って言い出す。やけどな、この反応こそが天才を2度殺すんやで。」
「2度殺す・・・・・?」
「ええか、時代は変わる。時代が変わるとは、ルールが変わるということや。ほんで、天才も、ゲームのルールが変われば、失敗する。間違える。ほんなら途端に凡人は意見を変える。あいつは終わった、ってな。さっきまで手放しで褒めとった凡人が、急に態度を変える様子を見て、天才はさらに孤独を深める。」
「孤独を深める・・・・・?」
「天才は思う。ああ、やっぱり自分は世界に理解されないんだな、と。このとき天才の頭によぎるのは『自殺』や。文学の天才、芸能の天才、ビジネスの天才でも、成功した後に死を選ぶ天才がおるやろ。」
「じ、自殺・・・・・?」
「天才は2度殺される。1度は成果を出す前に。もう1度は成果を出した後に。」
信じたくない、そう思った。
でも、わかるような気もした。
何者でもない時代から、僕は鹿島修人を見てきた。

彼は成功した。
すると、世の中は彼を「天才」と称した。
だが時代は変わり、彼は今、成果を出せなくなった。
するとどうだろう?
この前まで「社長!社長!」と言っていた多くの従業員が、手のひらを返し始めた。
それを見て、僕は怒りを感じていた。
「天才が自殺・・・。想像するだけで胸が痛くなります。」
僕はさっきまでの怒りが急激に萎んでいくのを感じた。
「おい、さっきまでの勢いはどないしたんや、あんちゃん。」
「・・・僕みたいな凡人こそ天才を殺す、そう言われたときはピンときませんでした。ムカつきました。でも、たしかに言われてみれば、手のひらを返す、そうやって天才を苦しめてきたのは僕たちなのかもしれません。」
「わははは、せやろな。まさにこれが『共感性』を軸に生きる人の弱さでもあり、魅力でもある。つまり、Good or Badの評価は変わりやすい。まさに今、『オセロの石がひっくり返る瞬間』を体感してるわけや。」
「・・・なるほど・・・」
「話を戻そ。とにかく『創造性』は、直接観測することができひん。そもそも、創造的なもんとは、既存の枠組みに当てはまらへんから、フレームが存在せえへん。」
僕は唾を飲み込んだ。
「でも、でも・・・そうしたら天才を救う方法はない。こうならないですか?悲しすぎます、そんなの。だって天才が殺される。それを、指をくわえて見ているしかないのでしょうか?」
「いや、ある。」
「だったら教えてください!!」
「これが、まさに『天才・秀才・凡人の才能論』やで。」
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このパンダ、只者じゃないかもしれない。
僕は不思議な感情を覚えていた。
発言は鼻につくかもしれない。
でも鋭い考察は聞いたことがない話ばかりだ。
パンダは続けた。
「ええか。『天才・秀才・凡人の才能論』は簡単にマスターできるもんとちゃう。ステージが3つある。今日はステージ1の初歩。これだけ覚えとき。」
創造性は「間接的」には観測すことができる。それが凡人の「反発の量」である。
「だからこそ、”一見すると反対したくなるもの”ほど、創造的なもんが眠ってるかもしれへん。」
「だとしたら・・・どうすればいいんですか?どう天才を守ればいいんですか?」
僕は答えを早く知りたかった。
「まあ、焦らんとき。答えはいずれわかる。そんなことより、飯あるか?腹減ったわ。」
そう言うと、パンダは笹をおねだりしてきた。
しぶしぶ買い出しに行くと決めた僕は、聞いた。
「ところで・・・あなたの、お名前はなんて言うんですか?」
「ワシか? ワシの名前はプッティーや。」
プッティー・・・・・。
この謎のしゃべるパンダ。
いったい彼は何をもたらすのか。
僕には全くわからなかった。
でも、もしこのパンダの言うことが真実なら、それは、今のプロジェクトが失敗したら、鹿島修人には暗い未来が待っているってことじゃないか?
それだけは絶対に、絶対に、阻止しなければならない。
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【1−7】紛糾する経営会議