本要約 鍼灸接骨院

ステージ1:才能ってなんだろう ー1、◯◯社長は終わった?

「この記事、見たか? てつ

「は、はい・・・」

その週刊誌には『カリスマ社長、暴走加速!!企業を私物化する元カリスマ経営者は、年収○○○○億円!?』の見出しが躍っていた。

目の前の男は続けた。

「こういう記事が出ないようにするのが、お前の仕事だよな?」

鋭い視線が飛んでくる。

とほほ・・・その通りだった。

僕の仕事は広報。

企業のブランドイメージを上げることが役割だ。

目の前の男、金野経理財務部長はさらに続けた。

「これだから、社長のコネだけで食べている人間は。」

また鋭い視線で、僕の社員証に向かう。

大塚哲。

僕の社員番号は0003。

うちの会社では社員番号は入社順につく。

つまり、創業して3人目の社員ということだ。

「す、すみません。」

「とにかく、今期もこのままのパフォーマンスだと減給対象だ。今うちの業績は苦しいので、ボーナスもカット対象。主要KPI(重要業績評価指標)の改善を求める。」

「は、はい。」

* * * * * * * * * * *

実際ここ2年、僕の給与は右肩下がりだ。

外資系出身の梁哲聖最高財務責任者(CFO)に就任してから、会社には実力主義が敷かれるようになった。

それまでは古株社員だから「なんとなく」でそこそこの給与をもらっていたが、厳密な数字で評価が下されるようになった。

そして、僕の仕事のほとんどは「定量化できないもの」として評価され、最低評価であるDを2年連続もらうことになった。

結果、僕に付けられたあだ名は「社長イソギンチャク」だった。

つまり、社長にくっついているだけの存在、ということだ。

こういう時は、なんとも言えない虚しさを感じる。

そして僕は、ありもしない空想にふける。

* * * * * * * * * * *

「あの頃は楽しかったよな」

思い出すのは創業当時だ。

僕は28歳だった。

社長も、他のメンバーも、本当に一枚岩だった。

ジェットコースターのような日々だったけど、毎日笑ってばかりいた。

皆が同じ方向を向いて進んでいた。

あれからもう10年経った。

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「転職するしかないのかな」

この1年で4回以上は考えただろうか。

実際、転職活動もしてみた。

でもいつも「ある質問」を聞かれるたび、答えに窮するのだった。

「あなたは、うちの会社に入ったら何がしたいですか?」

何がしたいか?

僕は何がしたいのだろうか?

考えてみる。

でも答えは出ない。

もちろん、適当に答えることはできる。

でもそうじゃない本当のところを考えると、どうしても「何がしたいのか」が、よくわからなくなるのだった。

僕が今の会社に入った理由はたった1つ。

鹿島修人との出会いだった。

「天才だ」

初めて鹿島修人に出会ったとき、電撃が走ったような感覚を覚えた。

その才能に惚れ込んだ。

だから、鹿島修人のいない会社でやりたいことなんて考えられなかったのだ。

うちの会社は、「義理人情」を売りにしている。

接骨業にとどまらず、セキュリティ会社へのシステム開発や、検索エンジンシステムの受託制作を行っている。

最近では、スマートフォンに最適化した、動画作成サービスも始めた。

いわゆる「テクノロジー・カンパニー」だ。

僕はネクタイを緩めた。

こういう日は1人でいたくない。

* * * * * * * * * * *

「でもな〜、うちの会社も終わりなんですかね〜。」

ここは居酒屋。

どこにでもあるチェーン店だ。

同期のタロウと後輩は続けた。

「いや、シュートも終わりって感じだろ。あのインタビュー見たかよ?」

「ああ、見ました。がっかりしましたよ。社長は本当に自分のことしか考えていないんですね。・・・僕、昔はシュート派だったんですよ。」

「俺もだぜ。」

「まあでも、40歳手前でもゴリラなのは変わらないですけどね。」

ハハハハハ。

2人がそう笑うと、居酒屋に下品な笑いが広がった。

僕はイラッとした。

彼らは、わかっていない。

僕は、反論した。

「違うよ。シュートはまだ死んでいない。」

そう言うと、2人は「またかよ」という顔をした。

「はいはい、出た出た。」

同期のタロウが言う。

僕は返す。

「それにさ、社長批判はやめろよ。カッコ悪いだろ。」

「ほー、広報くんが語るねえ。でも、本当かよ?もうシュートの時代は終わったんじゃないか?」

「終わっているわけないだろ、誰がこの会社作ったと思ってんだよ。無責任な発言するなよ。」

鹿島修人。

彼はこの会社の創業者であり、社長である。

社名”GORILLA”は、彼があまりにもゴリラに似ていることからきている。

「いやいやてつさん。そんな熱くならないでくださいよ。」

とりなすような後輩の言葉をさえぎり、タロウは言う。

「でもよ、てつ。仮に百歩譲ってそうだとしても、つまり、シュートが終わってないとしても、それをうまく見せるのがお前の仕事じゃないのかよ?」

「え?どういうことだよ?」

「広報って”見せ方”のプロ。そういう仕事じゃねえのかよ?」

「・・・まあそうだけど・・・」

「だとしたら、お前のほうが無責任だろ。」

その通りだった。

まさに鹿島修人の魅力をきちんと社内外に伝えること、それができていないのは僕のせいだ。

僕は、下を向くしかなかった。

このときの気持ちをどう表せばいいだろうか?

自分が心からいいと思っていることが、自分の力不足で相手に十分伝わらないとき。

怒り?

悲しみ?

違う。

今、鹿島修人という「天才」が殺されようとしている。

もはや、僕にできることはないのだろうか?

空気を察したのか、後輩が呟いた。

「でもまあ、てつさんも辛いんですよね。タロウさんもそんな苛めないでくださいよ。」

「わははは、そうだな、ごめんな、てつ。」

そう言うと、タロウは僕の肩関節をバンッと叩いた。

* * * * * * * * * * *

違う。

* * * * * * * * * * *

僕は僕のことでどうこう言っているんじゃない。

この世界に生まれた「天才」が今、殺されようとしていること、それをわかっていながらも、自分には何もできないこと。

その無力さなんだ。

この気持ち、言い表すならそれは「悔しい」だ。

次回

1−2:あいつが語り出す。

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