
あいつが語り出す
僕は深夜の寝屋川を歩いていた。
「あ、雨だ。」
こういう日に限って、ついていない。
誰かが呟いた途端、人だかりは駅に向かって走り出した。
一気に雨脚が強くなり土砂降りになると、周りから誰もいなくなった。
僕は、いつもなら人だかりがある寝屋川駅前広場のパンダ像の前で、ぼんやりと見上げた。
パンダがこっちを見ている。
そんな気がした。
「お前、雨の中、大変だなあ・・・」
ビショビショになったスーツの裾が冷たくなってきた。
パンダ像は雨にも負けず、しっかり前を見つめている。
「パンダか・・・。皆に愛される存在・・・。いっそ、パンダにでもその秘訣を教えて欲しい気分だよ。」
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・・・・・・・?
一瞬、パンダの口角が上がった気がした。
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そんなわけはない。
雨は強くなる。
誰もいない寝屋川で、僕は心の中で叫んだ。
お願いです!!
どうか、僕に力を貸してください!!
鹿島修人を救いたいんです!!
だって彼は、僕が人生で初めて惚れ込んだ「才能」なんです!!
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パンダ像がキラリと光った。
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「その願い、叶えたろか〜?」
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「え・・・・・・!?」

翌朝、目が覚めると、目の前にパンダが座っていた。
「よお。」
え?
え?
パンダが言葉を話している・・・。
見た目はパンダ像そのもの。
どう見ても、パンダだ。
でも、パンダが話しをしている。
「よお。」
僕は自分の目と耳を5度疑った。
僕はひと通り疑い終わると、こう言った。
「だ、だ、誰なんですか?」
「パンダや!!」
「あ、それは見たらわかりますが、なんで喋ってるんですか?」
「喋るパンダやからや。」
「いや、あの、そういうことじゃなくて・・・」
「ほななんや?」
「何者なんですか、その。あなた様は?」
なぜか敬語が出た。
「ワシか?」
「はい」
「CPOや。」
CPO?
最高経営責任者(CEO)のようなものだろうか。
僕はとにかく得体の知れないものを見ている感覚だった。
「CPO・・・・・・なんですか、それ?」
「チーフ・パンダ・オフィサー」
「ち、ち・・・・・・・・?」
「チーフ・パンダ・オフィサーって・・・」
「・・・・・か、帰ります。」
「帰るて、ここ自分の家やんけ。」
「あ、じゃあ、会社行きます。」
「待て待て待て。嘘やん。嘘。ジョークやんか。お前ほんま、わかってない。関西人ちゃうやろ。ほんまはな、ワシはCTOや、CTO。」
CTO?
最高技術責任者・・・・
パンダなのに?
僕はパンダの足を見た。
丸っこくプリンとしている。
この足でエンジニアリングなんて、できるわけない・・・。
とほほ、パンダにまで、からかわれている。
その気持ちを見抜いたのか、目の前のパンダはニヤリとした。
「違う、TはタレントのTや。すべての才能を司る者、チーフ・タレント・オフィサーや!!才能を知り尽くし、全生物の頂点に立つ男やで!!」
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CTO:Chief Talent Officer
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「・・・は、はあ?」
「お前、昨日こう言うたな『パンダに秘訣を教えて欲しい』って、ほな、クイズを出そう。ワシら『パンダの才能』はなんやと思う?」
「パンダの才能!?」
「せや。だって不思議やん。パンダなんて、ほとんど役に立てへん。むしろ、餌代えげつないし、糞尿も撒き散らす。せやけど、人間はメロメロや。なんもせんでも餌をくれる。お金も時間も使ってくれる。それは例えるなら、タレントちゃうか?」
パンダがタレント・・・?
考えたことがなかった。
でも確かに、パンダほど世話がかかる、でも、人を魅了している動物は少ない。
「まあ、言われてみたら・・・」
「せやで!!ええか。なんでパンダが人を魅了するのか。それは3つの要素があるからや。何かわかるか?ここから才能を理解する一歩が始まる。」
「パンダが愛される理由・・・・?可愛いからですか?」
「あー、アホや。アホ。脊髄で喋ってるやろ、じぶん?可愛いだけの動物なんて腐るほどおるわ。」
「た、たしかに・・・」
「結論言うとな、パンダが愛される要素は3つあるんや。それは、ちっちゃくて、丸くて、ちょっとバカなとこなんや。」
「小さくて、丸くて、ちょっとバカ?」
「せや。この世の愛されているキャラクターは全部そうや。赤ん坊はどうや?」
「たしかに、小さくて・・・丸いし、ちょっとバカです。」
「せやろ。くまモンは?キティちゃんもそうやろ。全部小さくて丸くてちょっとバカやろ。」
「たしかに・・・・はい。」
「人は、完璧やから愛されるんちゃう。むしろ逆や。弱点をさらけ出すからこそ愛されるんや。ワシらパンダ界もそうや。」
「ええか、学歴が良くて仕事のできる人間ほど、よーく勘違いする。強みで愛されるってな、せやけどな、真実はむしろ逆や。弱みがあるからこそ人は愛されるんや。つまり、パンダの才能は『愛される余白』や。」
「愛される余白・・・?」
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たしかに、思い当たる節があった。
まさに、鹿島修人だった。
彼は完璧じゃない。
できないこともたくさんある。
でも、それこそが彼の魅力だった。
助けたくなるのだ。
だけど、それが才能となにか関係があるのだろうか?
「は、はあ・・・それは理解します。でも、さっきから何の話しをしているのか、よくわからないのですが。」
「自分の心に聞いてみいや、それ。」
「僕の心?」
「昨晩、悩んでいることがあったから、ワシに相談してきたんちゃうん?」
僕は昨晩を思い出した。
酔っ払った勢いだった。
でも、悩んでいることがあった。
「たしかに。そうなんです。仕事で『悔しい』と思うことがあって・・・」
「人間が抱えるほとんどの悩みは一緒や。それは『自分のコントロールできないことを、無理やりコントロールすること』から生まれている。」
「コントロールできないもの?」
「例えば、仕事で部下が言うことを聞かないとか、な。でも他人なんてそもそもコントロールでけへん。あるいは、相手の気持ちを疎かにして、無理やり話を進めようとする。自分の外見や家柄を理由に、できない理由を語る。悩みの根っこは、実はぜーんぶ同じやで?」
同じ?
そうなのだろうか?
パンダは続けた。
「すべて『自分のコントロールできないこと』を、無理やりコントロールしようとしている。いわゆる、パンダを池に連れていくことはできても、水を飲ますことはできないってやつや。」
「馬では・・・?」
小声で反論しつつも、僕は思い返していた。
「もっと自分はできるはず」
「なんでこうなったのだろうか?」
そう思うとき、僕は自分がコントロールできないものを動かそうとしているのかもしれない。
パンダは続ける。
「じゃじゃーん。ほな、ここでクイズな。人間が一番コントロールしたがるけど、一番の悩みのもとになるもんはなんや?」
「うーん、他人・・・ですか?」
「他人は2番目や。あのな、1番は、『自分の才能』や。言い換えれば『ないものねだり』をすることや。つまり、人がいちばん思い悩む根本は、『自分の才能をコントロールしようとしたとき』なんや。思い当たる節ないか?」
思い当たる節はたくさんあった。
小さい頃からずっとそうだった。
「もっとカッコよく生まれたら」
「もっとお金持ちに生まれたら」
「もっと器用だったら」
「もっと賢かったら」
「あと5cmだけ背が高ければ」
何度となく繰り返してきた悩みだった。
「せやけどな、悲観することはないで。それは自分の才能に気づいてないだけやからな。」
「自分の才能?」
「まず、そもそもやな。人の才能は3種類ある。お前は、自分がどれに近い人間やと思う?」
- 独創的な考え方や着眼点を持ち、人々が思いつかないプロセスで物事を進められる人
- 理論的に物事を考え、システムや数字、秩序を大事にし、堅実に物事を進められる人
- 感情やその場の空気を敏感に読み、相手の反応を予測しながら動ける人
「な、なんですか、これは?」
「つべこべ言わず、選ばんかい。」
「うーん・・・3つ目ですかね。空気を読むのは得意だと思います。」
「あー、ほんなら、お前は凡人タイプやな、凡人。」
「ぼ、凡人?」
「『共感性』を軸に物事を動かす人間ちゅうことや。ええか。これは順番に、創造性・再現性・共感性の3つの才能を表している。それぞれを順番に天才・秀才・凡人と分類しとこ。あんちゃんは凡人や。」
普通なら、怒るのかもしれない。
でも、僕は怒る気にならなかった。
なぜなら、誰よりも自分自身がまさに凡人であることを痛感していたからだ。
「凡人・・・ですか?」
「せや。」
「たしかに・・・この3つなら、正直、僕は凡人かもしれません。でも、だからこそ悩みもあります。」
僕は、正直な気持ちを伝えた。
「やっぱり・・・心の底では天才に憧れる自分がいます。」
「天才への憧れな、まあ、気持ちはわからんでもない。でもな、天才って、そんなええもんちゃうで?天才は変革の途中で凡人に殺されることがあるからな。」
「凡人が天才を殺すことがある・・・??」
「せや。」
次回
【1ー3】凡人が天才を殺す理由。